夕げ

こんにちは

師走

持病で太ももに自分で注射している。注射はいつも冷蔵庫で冷やしておかなければならないが、注射する1時間くらい前に取り出して常温に戻す必要がある。体温との温度差が大きいと、注射した時に痛みが強いからだ。だから冬は余計に気が重い。今日は思い立って、風呂場に注射針を持ち込んで、湯船に浸かりながらぎゅっと握って温めてみた。体も注射針も温まったところで、浴槽のふちに腰掛けて、右の太ももに注射針を刺した。いつもよりは痛みが少ないし、薬液が温まっていたせいか早く終わった気がした。針を抜いたら、いつもはゆっくり膨らむように滲む血が、肌に残った水と一緒に線になって、膝を伝って床を赤くした。コンタクトを外していて色しか認識していなかったが、ちょうど今生理中で毎日見ている血よりずっと鮮やかな赤で、「太ももから流れる血は初めて見るから見ておかないかん。」と思って、わざわざ脱衣所に置いてある眼鏡を取ってまで見た。絵の具の「赤」みたいなフレッシュな赤だった。トマトとかりんごとかそういう、明るく正しい感じの色だった。陰気な感じがしない清潔な赤。曇り続ける眼鏡でその清潔な赤を見てから、シャワーで全部流した。生姜の入浴剤を入れたら蛍光イエローになった湯船にもう一回浸かって、お湯の中で血が流れたらどんな感じになるのかな、と思って、曇るから諦めて眼鏡を外して、裸眼で、輪郭が曖昧で白さばかりわかる太ももをじっと見つめたけど、血はもう流れてこなかった。