夕げ

こんにちは

18度

働きだしたら、毎日「私はどう考えているのか」を求められる。 頭の中で考えていることを人に説明するのは本当に難しい。 気心の知れた友達に、わたしの語彙から、多少間違えても笑ってくれることを知っていて、自由に言葉をつまんで説明するのとはわけが違…

師走

持病で太ももに自分で注射している。注射はいつも冷蔵庫で冷やしておかなければならないが、注射する1時間くらい前に取り出して常温に戻す必要がある。体温との温度差が大きいと、注射した時に痛みが強いからだ。だから冬は余計に気が重い。今日は思い立って…

9月

そういえばと思って本を読みだした。紙に滲みた文字から夏の寂しさや風のぬるさや空の移ろいが肌身に感じられた。太宰治を読みながら、季節を感じる機会が減ったことにはたと気が付いて、そんな生活がなんなんだろうと悲しくなった。 占い好きの友達と電話し…

4月

蛍光灯で常に白っぽいオフィスから、ブラインドの隙間に指を差し込んで外を覗くと、5時になるのにまだ明るかった。びっくりした。夏至が来るまで存分に日永を楽しんでおきたい。毎年思って毎年忘れる。 一人暮らしを初めて1ヶ月の、私の1Kのアパートのリビン…

2020を

とんでもなかった2020年は、結構味気なく、友達の家でテレビのアイドルといっしょにカウントダウンしながら幕を閉じた。何も終わってないけど、やっと呪いが終わったんだと天を仰ぐような気持ちが、やっぱりどこかにある。2020年を思い返してなによりもはじ…

金木犀の夜

朝の間際、夜の去り際まで窓を開けて作業していると、昨日の朝に突然香り始めた金木犀の香りが遠慮がちな夜風といっしょに流れ込んできた。 夜の金木犀は、ふくよかで官能的な、秘めごとめいた香りに感じる。風呂上がりのシャンプーの香りが遠のいていくほど…

「どうして子供が欲しいって思うんだろう」とわたしも思います。

「嫌味じゃなくて単純な疑問なんだけど」という枕詞を付して、どうして子供を産もうと思うのか疑問を呈するツイートがたくさんリツイートされています。この件について、わたしも長年同じ疑問を抱き続けていたので、鍵垢から渾身のいいねを押さずにはいられ…

誤り

先日、朝からなんとなくいらいらしている日があった。 そういう日はもう目覚めた時からいらいらしている。窓を閉め切った部屋で昼前に目覚めて、身体が汗でべたべたしていることにどうしようもなく腹が立った。眉間にしわを寄せてもだえるように何度か寝返り…

ただ白

長雨が脳みそまで溶かしてしまうような7月だった。 今年はずいぶん梅雨が長引いて、まだ陰気な湿度が街を覆っている。 春が過ぎて夏が本腰を入れようとするのを、部屋の椅子に腰かけてぼっと眺めている。退屈なテレビをつけっぱなしに見るでもなく見ている…

話したくないことについて

話が上手な人より聞くのが上手な人のほうがすごい、というのが社会で通説になってどのくらいになるだろう。あちこちで聞き上手であることが評価される。わたしも聞き上手への評価を疑わなかった。聞き上手な保健室の先生を尊敬していたし、相手が話しやすい…

連続しないことについて

一昨年、大学の講義で震災文学論というのを履修した。担当の先生が、大学の先生では相当めずらしく予備校の講師ばりに授業が上手で、いつも一番前の席で受講した。授業を楽しみに一週間を過ごすというのは、わたしの長い学生生活のなかでもなかなかないこと…

「陰キャラ」を考える

COVID-19の影響で、おいそれと部屋の外には出られない日が続きますね。 いちおう就職活動中の身ですが、まだ一度も面接が行われず、ウェブでの面接もなく、毎日エントリーシートを書いたり書かなかったりするだけの、あまり実感ががわかない就活期間を過ご…

後部座席

家族で車に乗って遠出するとき、後部座席に座るのが好きだった。うたた寝から目を覚ますと、両親は運転席と助手席に肩を並べて何か話している。妹はわたしの隣でまだ寝ている。渋滞情報を伝えるラジオが流れていたり、両親が若いときに流行った洋楽が流れて…

あるゆえ

3年の春学期の演習は、創作のクラスを選択した。詩人の先生のもとで、詩やエッセイや小説を書いて、20人弱の生徒が互いに読んでは意見を出し合う。原稿用紙四枚程度の短編小説の課題を出されたとき、結構な人が物語のオチとして登場人物が死ぬストーリーを描…

さっき分かったこと

つい先ほど、朝の4時半すぎに、締め切りが迫った書道の課題を提出しにポストへ出向いた。 部屋でひとり筆を持っている間、うなり声を上げて吹き付けていた風はまだ街をさまよっていて、寮の重い扉を開けると駐輪場の自転車がひとつ倒れていた。道路には秋の…

ある

先週の週末が過ぎて東京で始まった一週間は、まるで生気が抜けたみたいな身体で生活した。なんにもしたくないまま日曜日の夜になったんだけど、それでもちょっとずつ学校の予習をしたり課題を提出したり、やらなきゃいけない日常のさまざまに向き合ってちゃ…

さよなら

その日、群青は星を連れて、どんどんやってきた。ぼくは自転車に乗りながら、本当に家に帰るべきかな?と思った。帰るべきかな?家に。群青が星を連れてきているのに?街の輪郭がぼやけだした。自転車は、夕飯や石鹸の匂いと昼間の浮かれすぎた空気が同居す…

9/16

気づいたら9月も中旬!夏はいつも、気づいたときには後ろ姿になっているね。 秋が姿を見せるのはいつも唐突で、しかもひっそりしている。日中は変わらず暑いのに、日が落ちる頃に風が冷たくなっていて、不意を突かれてびっくりしてしまう。そして去っていく…

9/2

中学校を卒業して7年が経つ。小中高と、わたしは教室の真ん中にいるタイプの生徒だった。学級委員や生徒会をしていたし、体育祭や文化祭で幹部にならない年はなかった。楽しいこともあったはずなのに、いまになっては当時感じていた息苦しさばかりが思い出さ…

SIGHT

彼女はよく、ぼくの眼鏡を「貸して」と言って取り上げては身につけた。そしてその度に「頭がおかしくなる」としかめ面をして、それでいて楽しそうだった。 今日も、貸して、と彼女は言った。ぼくが返事をする前に彼女はレンズに触らないように器用に眼鏡を取…

あかね

9月のはじめの、まだアスファルトに陽炎がゆらめくような気温の夕方に、君は燃える空を遠く見ながら「秋のにおいだ」って言ったんだ。めちゃくちゃ暑かった。 僕は蒸気みたいな空気を吸い込んだ。風呂場にいるみたいだった。でももちろん石鹸のにおいはしな…

びゅーちふる

「好き」を言うときに、夏目漱石が「月が綺麗ですね」って言ったみたいに、自分の「好き」に一番近い色や匂いや手触りの言葉を探したいと思うんだけど、「君と会った時 僕の今日までが意味を貰ったよ」が衝撃的な愛の表現で、強すぎる香水を嗅いだときみたい…

以来!

ながく延びた梅雨が、まだ居座っているね。 重たくべたついた空気は、こないだの金曜日と土曜日の、沸騰したやかんから熱いお湯がふきこぼれるような、初雪にジャンパーをひっかけて庭へ駆け出すときみたいな、そんな興奮を、冷めやらぬ熱量をそのままに、じ…

こんばんは

おい、あんた。ちょっと煙草一本くれねえか。わるいね。そう、火も。ありがとう。こんな遅くにこんなとこで、何してんだ? 失恋か? なんだよ、おもしろくねえな。いま女は? おいおいそんなに怒るなよ。上見てみろ、今日はいい月だなあ。一杯やりたくなるな…

私論、ゆめについて

みなさん、どうですか? 死んだら、星になりたいと? わたしは、死んだら、星になりたくない。星になってしまうと、星を見れなくなりますからね。 それから、どうですか?天国と地獄はあるとお思いですか?そもそも死後の世界が? わたしは天国とか地獄とか…

00:30

「窓を開けると、夜が部屋へ流れ込んでくる」という一節を、中学のとき詩に書いた。市内のコンクールに提出するやつに。賞はもらえなかった。もうひとりクラスで選ばれて一緒に詩を送った子が特選だった。「太陽はみんなのおかあさん」みたいな詩。わたしは…

連続しない

坂道が続いていた。 踏切がけたたましく鳴るのを待ちながら、老人が言う。 あっちは黒い雲だ。こちらは、こんなに晴れているのに。 踏切の向こうを指した。並んだ老婆が腰を伸ばして言う。 本当、変な日ね。 電車がごう、と沈黙を敷いた。 黒い雲は見えなく…

記し

戦争に行った老人が、自身の戦争体験を記者に話し切った途端に呆けてしまって、何もわからなくなったという話を聞いたことがある。 思い出を言葉にして書き連ねてしまうと、絶対に忘れまいとできごとを反芻しては色を保っていた脳みその機能がが役目を終えた…

湿度

雨が降った後の、青くさく匂い立つ土と水たまりの匂いが好きである。まるで気体がみどり色に色づいて見えるような、じっとりとしてふくよかで、湿った匂いが好きである。長靴が履きたくなる。だいたいあの匂いがするときは雨が止んで、下手したら虹も見えて…

わたしが生まれたところは、風が強いところである。 桜は花が開くやいなやちりぢりになり、夏は台風が来ているのかそうでないのかわからないような感じで、稲穂が頭をもたげるころは辺り一帯が金色の海になってさざめき立った。雪が降りだすと、冷たい風がそ…