夕げ

こんにちは

2019-01-01から1年間の記事一覧

後部座席

家族で車に乗って遠出するとき、後部座席に座るのが好きだった。うたた寝から目を覚ますと、両親は運転席と助手席に肩を並べて何か話している。妹はわたしの隣でまだ寝ている。渋滞情報を伝えるラジオが流れていたり、両親が若いときに流行った洋楽が流れて…

あるゆえ

3年の春学期の演習は、創作のクラスを選択した。詩人の先生のもとで、詩やエッセイや小説を書いて、20人弱の生徒が互いに読んでは意見を出し合う。原稿用紙四枚程度の短編小説の課題を出されたとき、結構な人が物語のオチとして登場人物が死ぬストーリーを描…

さっき分かったこと

つい先ほど、朝の4時半すぎに、締め切りが迫った書道の課題を提出しにポストへ出向いた。 部屋でひとり筆を持っている間、うなり声を上げて吹き付けていた風はまだ街をさまよっていて、寮の重い扉を開けると駐輪場の自転車がひとつ倒れていた。道路には秋の…

ある

先週の週末が過ぎて東京で始まった一週間は、まるで生気が抜けたみたいな身体で生活した。なんにもしたくないまま日曜日の夜になったんだけど、それでもちょっとずつ学校の予習をしたり課題を提出したり、やらなきゃいけない日常のさまざまに向き合ってちゃ…

さよなら

その日、群青は星を連れて、どんどんやってきた。ぼくは自転車に乗りながら、本当に家に帰るべきかな?と思った。帰るべきかな?家に。群青が星を連れてきているのに?街の輪郭がぼやけだした。自転車は、夕飯や石鹸の匂いと昼間の浮かれすぎた空気が同居す…

9/16

気づいたら9月も中旬!夏はいつも、気づいたときには後ろ姿になっているね。 秋が姿を見せるのはいつも唐突で、しかもひっそりしている。日中は変わらず暑いのに、日が落ちる頃に風が冷たくなっていて、不意を突かれてびっくりしてしまう。そして去っていく…

9/2

中学校を卒業して7年が経つ。小中高と、わたしは教室の真ん中にいるタイプの生徒だった。学級委員や生徒会をしていたし、体育祭や文化祭で幹部にならない年はなかった。楽しいこともあったはずなのに、いまになっては当時感じていた息苦しさばかりが思い出さ…

SIGHT

彼女はよく、ぼくの眼鏡を「貸して」と言って取り上げては身につけた。そしてその度に「頭がおかしくなる」としかめ面をして、それでいて楽しそうだった。 今日も、貸して、と彼女は言った。ぼくが返事をする前に彼女はレンズに触らないように器用に眼鏡を取…

あかね

9月のはじめの、まだアスファルトに陽炎がゆらめくような気温の夕方に、君は燃える空を遠く見ながら「秋のにおいだ」って言ったんだ。めちゃくちゃ暑かった。 僕は蒸気みたいな空気を吸い込んだ。風呂場にいるみたいだった。でももちろん石鹸のにおいはしな…

びゅーちふる

「好き」を言うときに、夏目漱石が「月が綺麗ですね」って言ったみたいに、自分の「好き」に一番近い色や匂いや手触りの言葉を探したいと思うんだけど、「君と会った時 僕の今日までが意味を貰ったよ」が衝撃的な愛の表現で、強すぎる香水を嗅いだときみたい…

以来!

ながく延びた梅雨が、まだ居座っているね。 重たくべたついた空気は、こないだの金曜日と土曜日の、沸騰したやかんから熱いお湯がふきこぼれるような、初雪にジャンパーをひっかけて庭へ駆け出すときみたいな、そんな興奮を、冷めやらぬ熱量をそのままに、じ…

こんばんは

おい、あんた。ちょっと煙草一本くれねえか。わるいね。そう、火も。ありがとう。こんな遅くにこんなとこで、何してんだ? 失恋か? なんだよ、おもしろくねえな。いま女は? おいおいそんなに怒るなよ。上見てみろ、今日はいい月だなあ。一杯やりたくなるな…

私論、ゆめについて

みなさん、どうですか? 死んだら、星になりたいと? わたしは、死んだら、星になりたくない。星になってしまうと、星を見れなくなりますからね。 それから、どうですか?天国と地獄はあるとお思いですか?そもそも死後の世界が? わたしは天国とか地獄とか…

00:30

「窓を開けると、夜が部屋へ流れ込んでくる」という一節を、中学のとき詩に書いた。市内のコンクールに提出するやつに。賞はもらえなかった。もうひとりクラスで選ばれて一緒に詩を送った子が特選だった。「太陽はみんなのおかあさん」みたいな詩。わたしは…

連続しない

坂道が続いていた。 踏切がけたたましく鳴るのを待ちながら、老人が言う。 あっちは黒い雲だ。こちらは、こんなに晴れているのに。 踏切の向こうを指した。並んだ老婆が腰を伸ばして言う。 本当、変な日ね。 電車がごう、と沈黙を敷いた。 黒い雲は見えなく…

記し

戦争に行った老人が、自身の戦争体験を記者に話し切った途端に呆けてしまって、何もわからなくなったという話を聞いたことがある。 思い出を言葉にして書き連ねてしまうと、絶対に忘れまいとできごとを反芻しては色を保っていた脳みその機能がが役目を終えた…

湿度

雨が降った後の、青くさく匂い立つ土と水たまりの匂いが好きである。まるで気体がみどり色に色づいて見えるような、じっとりとしてふくよかで、湿った匂いが好きである。長靴が履きたくなる。だいたいあの匂いがするときは雨が止んで、下手したら虹も見えて…

わたしが生まれたところは、風が強いところである。 桜は花が開くやいなやちりぢりになり、夏は台風が来ているのかそうでないのかわからないような感じで、稲穂が頭をもたげるころは辺り一帯が金色の海になってさざめき立った。雪が降りだすと、冷たい風がそ…

わたしは、まだ男女の愛を知らない。 結婚は、男女が永遠の愛を誓うという。 一生を共に過ごしたいと思った他人と、結婚をして、しばしば子を授かったりする。一生を誓い合った大切なひととの間に生まれた幼いひとは、どれほど大切な存在か、想像に難くない…

夜ご飯を食べていた。今日の夜は新年度初回の男女合同の寮会と委員会の挨拶があるから、いつもより食堂は混んでいた。 テレビでは、小学3年生でいじめに遭い、不登校になった少女のエピソードが語られていた。少女は父と二人暮らしで、豊かとは言えない経済…

風呂

わたしはよく「考えればわかるだろ!」と怒られる。 バイト先でも、浪人中の予備校でも、こないだの自動車学校でも。 そのときはウーンと脳みそを絞るようにして考えたつもりなんだけど、いざ訊ねて答えを聞いてみると、確かに相手をおちょくっているとも思…

4月

女であるがために損をしたことがある。 最近は少しでも女がその人権や男との平等を求める姿勢を見せようものなら、こいつフェミか!と顔をしかめて煙たがられるような空気がある。とわたしは思ってる。特にネットを見ているとそう思う。 春休み中に、一年の…

3月

わたしはたまに、メッチャ泣きたくなるときがある。 日常生活で、わたしは悔しいとか悲しいとかで泣くことはあんまりない。悔しいに関しては全くない。絶対ない。ムカつく〜!!!!!!!と思って泣くこともない。親と喧嘩をするといつも泣いてしまうけど(…

ぐるぐる

夜にしゃぼん玉をしたことある? わたしの実家の部屋は二階で、夜になるとすぐそばの道路にある錆びついて斜めになっている街灯の光(いつからかLEDになってやけに明るい)のおかげで部屋は水族館くらいの明るさだった。ちょうどいい。 窓を開け放ってしゃぼん…

深夜1時

東京の冬は短いね もう春がそこまで来てるね 山形は雪は溶けたようだけど一桁気温が続いているころ。こちらに来てからは、外へ出て暑いとか寒いとか思うたびに山形はどんなだろうと思うようになった。同じ時計の針の上にいるのに、見える景色は全然違うから…

23時

ずっと分からない話するね。 わたし、本ってあまり読み返さない。 わたしは小さい頃からもっぱら図書館で本を借りていたから、買ってもらった1冊の本を大事に読み返すテイネイな読み方なんて出来ずに、膨大な量の文字を片っ端から読み漁っていた(学校の図書…

23時

わたしはよく、泳いでいる夢を見る。 場所はいつも小学校の教室で、西日が差して壁の木目調が茜色に染まった空間の、天井すれすれにわたしは浮いていて、平泳ぎで移動する。教室には誰もいない。うるさくない。わたしは高窓をイルカみたいに優雅にくぐったり…

その音

原風景の話をします。 まだランドセルも背負う前、お父さんを真ん中にして、わたしと妹はお父さんにぴったりくっついて寝ていたこと。お父さんにお話をねだったこと。それは夏で、頭上の網戸をすり抜けて降ってくるような星と、蛙の声と、遠くから電車が走る…

1/12 午後6時

本日、東京は初雪。 わたしは課題に追われて、さっきやっと練りに練ったレポートを書き出したところ...。4500字以上だから、戦いはまだ始まったばかり...。先は長い。 昨日初めてこの手記のURLを公にした。やっぱり人に見られるとなるとどきどきして、お風呂…