夕げ

こんにちは

あかね

9月のはじめの、まだアスファルトに陽炎がゆらめくような気温の夕方に、君は燃える空を遠く見ながら「秋のにおいだ」って言ったんだ。めちゃくちゃ暑かった。

僕は蒸気みたいな空気を吸い込んだ。風呂場にいるみたいだった。でももちろん石鹸のにおいはしなくて、秋のにおいもしなかった。ちょっとだけどこかの家の晩御飯のにおいが鼻をかすめたくらいだ。

でも僕は「ほんとだ」って言った。

そうしたら君は、ね、って言って、また自転車を押して歩きだした。

車輪が回る音と蝉の音のアンサンブル。

そうして2日もしないうちに、半袖じゃいられなくなって、夜は窓を閉めて眠るようになった。秋はやってきてたんだ。ほんとにね。

僕は、9月になるとそれを思い出して、何度も大きく息を吸い込む。秋のにおいは熱に弱いのか、僕はやっぱり長袖パジャマになるまでその到来に気づかない。

でも君は、ひっそりやってきて居心地悪そうな秋に挨拶ができる。お久しぶりです、今年も随分な夏でした。

秋は饒舌に語り出す。

君が迎え入れた季節が始まる。